けっこう前からフェアトレードコーヒーについて日本でも活発に議論されていました。多分その火つけ役になったのが、「おいしいコーヒーの事実」という映画だったのではないかと思います。
フェアトレードが流行ってからけっこう時間が経ってしまったのですが、果たしてフェアトレードは本当にコーヒー農家のためになっているのか、実際にはただの偽善者による茶番なのではないかなど未だに議論されています。今回はそもそもフェアトレードコーヒーとは何なのかを改めて振り返り、その意義について考えていきたいと思います。
目次
1). そもそもフェアトレードとは何か
2). 注目されているコーヒーのフェアトレード
3). フェアトレードのコーヒー豆にはラベルがつく
4). フェアトレード市場の拡大
5). フェアトレードコーヒーに対する批判
そもそもフェアトレードとは何か
なんとなく「フェアトレード」という単語はみなさん聞いたことがあるのではないかと思います。フェアトレードは書いて字のごとくなのですが、「公平に(=フェア)貿易しよう(=トレード)」というものです。
(1) フェトレードの意味
これは一般的に途上国と先進国の間での貿易に対して使われることが一般的です。コーヒー、紅茶、果物といった生産物を適正な値段で途上国から輸入することによって、どうしても立場が弱くなってしまいがちな途上国との関係を公平にしようというものです。
たまにスーパーなどで果物を買胃に行ったりすると、よくこんなに果物を売ることができるなあと思うことがあります。この安さの裏には、その果物を作っている途上国で農家の人たちに正当なお金が支払われていなかったり、大量に生産するために環境破壊やたくさんの農薬が使われている可能性もあります。
この問題を解決するために適切な農産物などの値段を事前にしっかりと決めて、どんなに農産物の値段が下がっても、決められた値段よりも安く農産物を買うのはやめようというのが、フェアトレードのざっくりとした概要です。
- 参照記事
- オランダのコーヒーショップは大麻の販売所?!
(2) どんな農産物がフェアトレードの対象なのか
そんなフェアトレードの対象となる農産物ですが、実はかなり多くの商品でフェアトレードの大切さがいわれています。有名どころで言うと、コーヒー、紅茶、バナナ、カカオなどが多いですが、他にも、りんご、ナッツ、砂糖、大豆、砂糖、米、ドライフルーツなどがあります。
食べ物以外にも、コットン、花、木材や金などがフェアトレードの対象としてよく話題になります。最近ではサッカーボールのフェアトレードも一部で話題になっているようです。コーヒー豆のフェアトレードが一番有名なのかなと思いますが、実際にはコーヒー豆に限らずに、幅広い農産物でフェアトレードの考え方が広がっているのです。
(3) フェアトレードと今までの途上国支援の違い
経済的な格差が大きい途上国を支援するという考え方は昔からずっとありました。しかし従来の一方的な国際協力や資金援助などは、あくまで“援助”という考えがベースにあるので、援助する側の国の事情に応じて支援できる時もあればできない時もあるので、継続性にかけていました。
また公平なパートナーというよりは、サポーターという感じなので、資金援助などのみで自律的に途上国が独立していくことは難しいとされています。
一方で、フェアトレードは途上国の農家と発展国の買い手とはあくまで平等な関係であり、良い農産物を作って、それが評価されて売れることでお互いに発展しようというものなので、今までの援助とは考え方が根本的に違っています。
一般個人の目から見ても、わざわざ募金して援助をしようとする人の数はそこまで多くないですが、日用の商品を買うときにフェアトレードの商品をなんとなく買うことは手軽であり、持続可能な発展につながります。
- 参照記事
- コーヒー豆の産地と栽培条件の特徴について【保存版】
(4) 具体的にフェアトレードではどんな支援をするのか
フェアトレードの具体的な内容で最も重要とされているのが、最低価格の保証です。農産物も今では金融市場で値段が決まり、需要と供給のバランスや投機的な動きなどによって、値段が毎日変わります。
それ自体は当然のことなので良いのですが、時には値段があまりにも下がりすぎて、とても農家が生活できないくらいの値段まで急落することがあります。しばらくするとまた値段も回復して元に戻るのですが、それまでの間、コーヒー農家は苦しい生活を強いられて、生活ができなくなってしまいます。
そのためにたとえどんなに農産物の値段が下がっても、最低価格以下には輸入するときの買取値段を下げないように設定しています。この最低価格の保証がフェアトレードで最も注目されていることです。
他にも、農産物を買い取る際にお金を前払い、安全な労働環境の提供、農薬に関する規定、環境に配慮した政策など数々のことを行っております。
- 参照記事
- カッピングとは何か?コーヒーの味を見極める方法について
注目されているコーヒーのフェアトレード
フェアトレードの中でも最も注目されているのはコーヒーなのではないかと思いますが、それには理由があります。そもそもコーヒー豆を栽培するためにはいくつかの条件があります。そして、その条件が整っている場所は赤道付近の途上国が中心になっています。
(1) コーヒー豆の価格はコーヒー農家から遠く離れた金融市場で決まる
そしてコーヒー豆の買取価格というものはそんな生産の現場である途上国からは遠く離れた先進国で決められています。コーヒー豆の種類によって場所は変わるのですが、ニューヨークとロンドンの国際金融市場で値段が決定します。
つまり、コーヒー農家が使った費用などに関係なく取引がされており値段が決定しているのです。たとえ金融市場が変動しても、コーヒー農家がコーヒーを栽培するためにかかる労力は同じなので、国際市場で勝手に値段が決まるというのは農家にとって死活問題なのです。
そのためにコーヒー豆の農家は金融市場による価格変動をもろに受けやすい業界であり、この問題を解決するために、フェアトレードの整備が進んできたという背景があります。
(2) フェアトレードの最低価格設定が農家を救う
最低価格の設定でどんなに収入が下がってもここまでというラインがあることで、コーヒー農家は食べていくことができます。
安定した収入は何もコーヒー農家だけのために存在するわけではなく、先進国のコーヒーを飲む人たちにとっても良い影響を与えます。コーヒー農家の収入が安定すると、コーヒーの品質向上のための設備投資やトレーニングを受ける余裕が出てきます。
コーヒーを栽培するための適切な知識を身につけることは、コーヒー栽培環境に対する負荷を減らして、品質の高いコーヒー豆の生産につながり、それは美味しいコーヒーが飲めることにつながります。
- 参照記事
- カフェ・フローリアンとは何か-世界で最も古いカフェ
フェアトレードのコーヒー豆にはラベルがつく
フェアトレードのコーヒー豆を見分けるための方法として、商品にラベルを付けて商品を買うときにその違いを分かりやすく伝えようという「フェアトレード・ラベル運動」があります。
コーヒー豆の栽培、加工。輸出入などすべての工程でフェアトレードの基準が満たされているのかどうかを国際フェアトレードラベル機構(FLO)というところがチェックして、基準がしっかりと満たされている商品にはラベルが貼られます。
もともとこのフェアトレードは1960年代にヨーロッパで始まったのですが、もともとは一部の市民間のみでの活動でした。これを国際市場の取引にも導入するために考え出されたのがこのフェアトレードのラベルだというわけです。
フェアトレード・ラベル運動は1988年にオランダから始まり、1992年にドイツをはじめとした他のヨーロッパ諸国に広まっていきました。そして1997年には世界に散らばっていたフェアトレードの組織が1つにまとまり、「国際フェアトレードラベル機構:FLO(Fairtrade Labelling Organizations International)」という組織が出来上がりました。
この国際フェアトレードラベル機構によって全世界で統一したフェアトレードの基準が出来上がり、その基準が満たされたコーヒー豆にのみフェアトレードのラベルが付けられるようになりました。
これによりフェアトレード商品の世界的なシェアが急拡大し、今では日本も含めて30か国以上が国際フェアトレードラベル機構に加入しており、フェアトレードの運動を支えています。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、フェアトレードのラベルが付いていない=フェアトレードの商品ではないというわけではないということです。実際に、フェアトレードをしているものの認定ラベルが付いていないものも多くあります。
国際フェアトレードラベル機構とは別に、ここの企業がコーヒー農家の人たちのことを思って、フェアトレードに取り組んでおり、特に機構からの認定は受けていないというケースがあるためです。
なので、一概にフェアトレードの認定ラベルの有無だけでは、そのコーヒー豆がフェアトレードなのかどうなのかは見分けることができません。フェアトレードの商品を見分けるための1つの目安でしかないと考える必要があるのです。
フェアトレード市場の拡大
フェアトレードが1960年代に入ってからすでに50年くらいが経ちましたが、それに合わせてフェアトレードの市場も拡大を続けてきました。
(1) 日本でのフェアトレード市場の拡大
日本でフェアトレード・ラベル運動が導入されたのは1993年になります。導入してからしばらくはそこまで普及していなかったものの、2002年頃からカフェやスーパーなどでもフェアトレードの商品がちらほら見られるようになりました。
2010年にはバナナ、チョコレート、コットンなどにもフェアトレードが広がった影響で日本でのシェアが急拡大しました。フェアトレードの市場規模は20億円を超えており、フェアトレードに参加する企業も続々と増えてきています。
(2) 世界でのフェアトレード市場の拡大
世界全体でのフェアトレードの市場についても拡大傾向にあります。シェアは8,300億円を超えており、急拡大を続けています。
フェアトレード普及の中心地でもあるオランダでは、国民の90%以上がフェアトレードのラベルの意味が知っているほど普及しているとも言われています。国別に見ると、オランダの他にも、ドイツ、スウェーデン、イギリス、スイスなどで普及が進んでいます。
フェアトレードコーヒーに対する批判
そんなフェアトレードコーヒーですが、一部では過度なフェアトレードに対する期待は逆に発展国のカフェやコーヒー豆の販売業者の生活を苦しくさせるというものです。当然ながらコーヒー豆そのものの買取価格を高くすると、コーヒー豆を仕入れる値段が上がります。
ではその上がった分の値段をカフェでコーヒーを飲む人に支払わせることができるかというとそうでもありません。ただでさえチェーン店やコンビニコーヒーなどの影響で値段が安くなっているにも関わらず、フェアトレードのコーヒーを導入したからコーヒーの値段を50円上がりますと言えば、お客さんが来なくなる可能性があります。
なのでその損失分はカフェやコーヒー豆の販売業者が被ることになります。カフェでコーヒーを提供する時に、コーヒー豆の仕入れ価格は売値の30%くらいが一般的です。つまり、300円でコーヒーを提供しているならばその30%の90円がコーヒーの仕入れ値である原価というわけです。
これを見て、じゃあ残りの70%である210円は利益になるんだからカフェが儲かりすぎている。コーヒー農家のことを考えてカフェがフェアトレードのコーヒー豆で上乗せされる損失分を被るべきだという意見があります。
しかし、カフェはコーヒー豆を仕入れる以外にもコーヒーを提供するために様々な費用が他に発生します。具体的には人件費と土地代がメインでかかる費用と言われています。ざっくり人件費で売上の30%、土地代で売上の30%は持っていかれるので、利益=売上ー仕入原価(30%)ー人件費(30%)ー土地代(30%)となり10%くらいしかありません。
そこから更に材料費や水道光熱費などもろもろの費用がかかるので、カフェで利益を出すのは実際難しいと言われています。そんなカフェに対してフェアトレードの負担を被らせるのは間違っているというのが、フェアトレードを批判する人の代表的な意見です。
それぞれの意見がもっともであり、どちらが良い意見で、どちらが悪い意見などという問題でもないと個人的には思います。コーヒー豆の適切な値段がいくらなのかは誰にもわかりません。単純に需要と供給の関係だけで決めても良いとは思えませんし、かといって需要と供給の関係を無視しても良いとも思えません。
どちらにしても、普段飲んでいるコーヒーの裏にはいろんなドラマがあると認識し、普段フェアトレードのコーヒーを飲まない人も、たまにはフェアトレードのコーヒーを飲んでみると味わいが深くなるかもしれません。
- 参照記事
- ギリシャコーヒーとは何か?その作り方と飲み方について