朝起きて飲むコーヒーって、気持ちが良いものです。
太陽を浴び、音楽などかけながらカップに口を付けると、何だか自分がリッチな人種に思えたりと…。
コーヒーは朝から昼頃まで、また食後の一服のお供に、というのが今となっては定番ステータスでありますけど、実はコーヒーは元々は夜に飲まれていたこと、ご存知でしょうか。
夜に飲むとカフェインの作用で眠れなくなるとか、身体に悪いとか言われますがその実、歴史上には夜にこそコーヒーを嗜んでいた時期があるのです。
コーヒーってそもそも何だろう?
コーヒーの起源には諸説あって、定かではないと今でもいわれていますね。
・エチオピアのヤギ飼い「カルディ」が赤い実を食べてヤギが元気になっていることを発見し、それがコーヒーノキであった説。
・モカ(イエメンの街)にいた僧侶「シーク・オマール」が街を追いやられた後、山で鳥がついばむ木の実を見つけ、それがコーヒーノキであったという説。
他にも発見説はいくつかあるようですが、この二つはとても有名です。しかし、信憑性はどちらも疑われています。カルディは創作めいているとされ、オマールは僧侶でありながら記述がないのです。
記述としての最も古い物は、アラビア人医師「ラーゼス」がコーヒーを煮出した汁「バンカム」を患者に処方していたというものがあります。コーヒーはその話からもわかる通り、現在で思われている趣向品・飲み物としてよりも「薬」として注目されていたのです。
実際、コーヒーの効果、効能などは医学的にも証明されており(リスクもまた同様に…)、薬と言われてもあながち間違ってはいないような、気もしますね。
コーヒーは秘薬だった?
コーヒーが、飲み物として人々に広まるのは、コーヒー発見からかなり後のことになります。
発見されたとされるエチオピアやイエメンでは主に、コーヒーは睡魔を取り払うための薬として僧侶たちによって使用されていました。
コーヒーの赤い実をそのままかじって食べたり、簡単に煮出して飲んだりと、今では勇気のいる方法でコーヒーを取り、眠気を覚ましてまた長い祈りを捧げていたといわれています。
ですがそのうちに一般市民にもコーヒーが広まっていったのですね。時期は15世紀頃といわれています。
そして、「コーヒーハウス」なるものが誕生するのです。
カフェ・喫茶のルーツ「コーヒーハウス」とは
コーヒーハウスは、イスタンブールで初めて開店したといわれています。店名は「カーヴェハーネ」。今でも世界中に同じ名前で構える店も多くあります。日本にもありますね。
カーヴェハーネとは、「コーヒーの家」という意味です。カーヴェ=コーヒー、ハーネ=ハウス、何となく伝わりますね。

カーヴェハーネが開店したのが1554年といわれ、16世紀のことです。その後、アラビア圏からヨーロッパへと伝わり、各国でコーヒーハウスは続々と出来上がってゆきます。
コーヒーには独特の匂いがありますよね、また色も一見して「美しい」と思えるかは微妙なところ。今でこそ当たり前のように飲んでいますが、初めて見たとしたら少し不気味に思うかもしれません。
当時のヨーロッパでは「キリストでは聖なるものとされたワインをムスリム(イスラム教徒)は口にすることが出来ないので、罰としてコーヒーを飲まされている」的な言い伝えがありました。ですがイスラム圏でそれほど広がったコーヒーを、一応として味見した当時のローマ法王が惚れ込んでしまい、仕方ないのでクリスチャンもコーヒー飲んでいいよ、とされたそうです。現代的なエピソードですね(笑)
コーヒーはなぜ夜に飲まれていたのか?
コーヒーハウスの営業時間までは定かではないですが…、発見され少し広まった当時からコーヒーは夜にこそ飲まれていました。
エチオピア、イエメン、アラビア圏など、コーヒーがよく育つ国は、まあ暑いです。日本の感覚からしたら、サウナにずっといるようなものといってあながち間違っていません。なので、その地方の人々は日中を避け、日の沈む頃から労働に励む人も多かったといわれています。正午頃などにせっせと動いていたら倒れてしまうので。
なので、その労働時間の共にコーヒーを飲む習慣が自然と身に付いたというのです。イスラム教ではお酒を飲むこと自体が禁止とされていますので、晩酌も飲み会もありません。コーヒーを夜に飲み、お祈りをし、また翌日からは暑さをしのいで働いていた、そんな経緯からきているのですね。
そうして出来たコーヒーハウスでも、夜に営業してコーヒーを振る舞うというのが普通とされていました。欧米に広まった後でもその風習は続き、欧米人も夜にコーヒーを飲んでいました。
コーヒーは、お酒のようなイメージに近かったのですね。
コーヒーハウスを巡る騒動のあれこれ
イギリスでもコーヒーは流行しました。17世紀中頃のことです。
ですが、悪魔の飲み物というイメージはイギリスにもあり、また匂いなどもきついと苦情は多かったようです。
そうした中、夜な夜な男達がコーヒーハウスに通い、コーヒーを嗜む日々に、男の妻達が「夫が家に帰らなくなった」とまた苦情が寄せられます。こちらは大規模な裁判沙汰にまでなり、コーヒーは身体に悪いという意見の他、性的不能にもなるなど言われ、社会的な出来事として今でも残っています。
イギリスに至ってはその騒動の経緯などからコーヒーハウスは減少し、現在のイメージである紅茶が広まり、落ち着いたというわけなのです。イギリスにはコーヒーのイメージはないですが、こんなことがあったとは驚きですよね…。
また、イギリスのこの例はかなり珍しいです。
他の欧米諸国でも、当時はコーヒーハウスは流行の兆しを見せたのですが、そのほとんどが「お酒との住み分け」による問題から、夜のコーヒーは追いやられてしまうのです。
主に、イタリア・フランスではワイン、ドイツ・アメリカではビールなど、国では特産品ともいわれるアルコール飲料を夜に出すのが習わしだとされ、よそから、それもアラビアから来たそんな飲み物に夜の社交場は譲らない、というわけでコーヒーハウスは夜のお店から徐々にお昼の方へ追いやられていったのです。
またロシアでは、アルコールではないのですが、国では市民にはお茶を飲むように薦めていて、コーヒーは今でもそれほど広まっていません。貴族の飲み物、というイメージだそうですね。
まとめに
コーヒーが夜に飲まれていたという話は、今となっては信じられないエピソードと化していますよね。
コーヒー好きなら、夜でも無性に飲みたくなることはありますけど。コーヒーのもたらすリラックス効果と、カフェインによる覚醒作用、これらに対しての研究や意見交換などは今でも二転三転しながら続けられていますね。
夜には、ミルクを加えたラテにして飲むと気持ち良いかなと、個人的には思います。そもそも、お酒を飲むこと自体も睡眠を浅くするリスクがあるので、コーヒーだけが夜に飲んだらダメといわれるのもおかしな話ですよね。

モーニングコーヒーという言葉はこれほど浸透しているけど、ナイトコーヒーってあまり言われません。
それには元々、アラビア圏では労働環境や気候の都合から夜にコーヒーを愛飲していた経緯があり、欧米にそのスタイルごと伝わりましたが、世の奥様からのクレームや、アルコールとの住み分けのため、今に伝わるコーヒースタイルが出来上がったというわけなのです。
ですけど、夜のコーヒーもたまには良いものですよ。おすすめです。